8. マイルドな名詞表現?

こんにちは。
網野智世子です。

前回のメールでは、

日本語では述語として「形容詞」が強い力をもつ

ということをお話させて頂きました。

さらに、
日本人の私たちは「速く歩く」などと動詞主体で表すよりも、
「歩くのが速い」などと形容詞主体で表すほうを好むように
思います。

さらにもう一つの理由として、
日本語では名詞、特に漢字語の名詞が非常に多く使われていて、
これが文法的には名詞でありながら事実上動詞のような
働きをするためと考えられます。

つまりそれらの漢字語名詞が動詞にとってかわるか、
意味の弱い(ある・なる等)動詞しか使わずにすむためです。

たとえば、

「管理」

といった漢字2語から成る単語を考えてみましょう。

「管理」は日本語では文法的には名詞です。

ちなみに、
これらに「する」をつければ
「管理する」という
サ変「動詞」になりますよね。

しかし、私たちはたとえば
「十分管理されている」という動詞表現よりも
「管理が行き届いている」といった名詞表現のほうを
好んで使っているように思います。

これはまず、「管理」という名詞自体に
実質的に「管理する」という行為の意味、
動詞の意味が入っているため、

「管理する」という動詞を使わなくても
「管理」と言えば動詞を使うのと
同じような効果があるためといえます。

加えて(これは私の推測が加わりますが)日本人の感覚だと
「管理されている」という動詞表現は強く聞こえ、
「管理が行き届いている」といった名詞表現のほうが
マイルドで使いやすいからというのもあるかもしれません。

「管理」などの漢字語名詞はご存じのように
中国から入ったと考えられています。

しかし当の中国語(ここでは普通話を指します)では
「管理(グァンリ)」という言葉は名詞であると同時に
動詞としても使われています(例:管理??(グァンリツァイウー) 財務を管理する)

少し話がそれますが、
このように中国語では名詞と同じ語が
動詞としても使われる場合が多く、
それが文法上は名詞としてのみ扱われる
日本語に比べて動詞の語彙はずっと多いといえます。

上の例でいえば「管理が行き届いている」は通常、英語では
be well managed, be well looked after

仏語では
etre bien entretenu[エートル・ビヤン・アントゥフトゥニュ]
などの動詞表現が使われます。

以上のような2点の理由から、
日本人が一般的に「動詞に弱く」なっているとのだと思います。

またそれによって、
私たちはともすれば日本語パターンに引きずられた
「A(名詞)はB(形容詞)」を英語に持ち込んで、
「なんとかイズなんとか」という言い方をしたり、
(フランス語でも「なんとかエ(est)なんとか」といったり)

英語やフランス語でなら動詞1語で表せることを
make, do, give(仏:faire, donner)などの
手頃な多義語+名詞で言ってしまったりする傾向が
あるのではないでしょうか。

SVO言語(VSO言語含む)では動詞の地位が
一般に高いので、語彙も多いといえます。

私たち日本語ネイティブにとって、
動詞が使いこなせないのは勉強不足や
頭の優劣ではなく、

言語の環境からくる合理的な理由があったのですね。

動詞の使い方を知っているか知らないか、
それだけで長い目で見ると大きな差が出てくることが
ご想像いただけると思います。

網野智世子

網野式・動詞フォーカスフランス語入門【ネイティブ音声付き・メールサポート付き】~本物のフランス語を身につけたい方へ~

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>